ヤマシャクヤク・斑入り

ヤマシャクヤクの斑入りには様々なタイプが見られます。
それぞれの特性には個性があり、区分できる特徴も見られるものです。
ここでは、それらのいくつかをご紹介します。

「白三光斑」
この仲間は白縞斑の雪白斑に銀のりや表層剥離などを絡めたキメラ斑ですが、通常の白縞斑との違いは主だったものは白斑や銀のりに緑のゴマ散り斑を絡めずにすっきりとした印象を受けるものを特定します。この系統の特性としては、本芸の時はいたって派手な白三光斑を現わしてとても美しいものですが、植え替えや株を分けたとき、株が弱った時などにはすぐに青葉になり易く、1年ごとの葉芸がことごとく変化する特徴があります。株立ちの場合でも派手な斑の脇に青葉が出る事がしばしば見られますが、これも株を弱らせないための自主防衛と捉えられます。このように自身の体調次第で自身をコントロールしながら変化していく斑入りたちなのです。実生も同様で、力を付けたい発芽当才から2~3年は全く斑を現わすこともなく、力がついていきなり派手な斑になることもしばしばです。ある意味特徴的な、ある意味とても癖のある華やかで人気の高い斑入りの一群です。

 

「ゴマ斑」(小島峠系)
ゴマ斑は俗に言う「小島峠」(おじまとうげ)系と呼ばれるヤマシャクヤクの一分野を築いた斑入りの総称です。斑としては葉脈の部分に緑を残して全面に散った規則性のある散り斑で、そこに銀のりを絡めた複雑な斑芸となります。芽出しの時期が早く斑としては紅を絡めた緑褐色で展開するものが多く、後に華やかなクリーム色地に緑散り斑となり開花後にはさらに白く変化するものや黄色く変化するもの、暗んで全葉に浅い緑をかけるものなどに変化します。四国祖谷地方で選別された系統ですが、古く30年以上前から栽培されていた系統で「きら星」や「いわし雲」など一世を風靡した品種もあります。当園で特に増殖に力を入れている系統は俗に言う「新小島」系と言うタイプで、これは早い時期に長野や山梨などに渡った小島峠系に山出し兄弟の株や黄刷け込み斑などと交配された系統のもので、暗まない綺麗な斑を長く保つものや後に白く変化する「白小島」系のものを多く選別しています。これらは芽出しの華やかさと暗みが少なく白抜けする、全面に散ったゴマ斑の美しさが特徴です。またときどき多弁花や緑を絡めた花などが咲く事も多く見られます。これまでは「小島峠」系としてひとくくりにまとめられがちだったこの系統ですが、育ててみればいずれも一線級の「小島峠」系の斑入りヤマシャクヤクたちなのです。基本は四国祖谷産ですが、古く各地に渡っている系統なので選別された県地域でそれぞれの地元の銘が付けられている個体もあり一部産地で混乱を招いているものも少なからず存在します。

 

「白散り斑」
ヤマシャクヤクの斑入りとしては一般的なもので初期の頃の斑入りは殆どこの白散り斑が主でした。緑の葉の一部や全面に鮮やかな流れに沿った白く細かい斑を散らしたもので一部に刷け込み斑を絡めます。時には葉の全面が白くなり緑の砂子斑を散らすものや、クッキリと白と緑の源平に分かれる斑など見た目に派手なものも多く見られます。特に九州からは多くの品種が見出されていますが全体に大柄で迫力のあるものが多く見られます。佐渡からもいくつかの多様な系統が見られますが、その一部の品種は大柄で作り込むごとに迫力を増すものもあり自身の作を試される品種たちでもあります。派手なものは見た目に綺麗ですがいずれ葉全体が白化して光合成が採りにくく衰弱しやすいものもあります。また、芽出し派手ながら後に少し暗む系統のものもあり、見方によってはその色移りの妙も見飽きぬ吟味ある趣を感じる品種もあり色々と楽しめます。

 

「黄刷け込み斑」
俗に「黄成り斑」と呼ばれる葉に黄色の刷け込み縞や散り斑を現わすタイプの斑入りたちです。この系統はいずれも似たものが多く白散り斑以上に区別のつけ難い斑入りたちです。芽出しの時は殆ど青葉で成長を始めるものが多く、葉の展開と同時に萌黄から黄色の刷け込み散り斑を現わします。この後、気温が上がるにつれてあるものは黄色のままで、あるものは白くなりあるものは暗んできます。時に紅をさすものもあり秋に斑の部分が紅葉するものもあります。黄色みの強い個体は早い時期から葉焼けが始まるので日照管理がなかなか難しい系統です。またキメラ性が強く青葉と黄葉にも分離しやすく、葉全体が黄色くなるいわゆるオバケになり易いのも特徴です。このオバケ状態のものが時々「黄金葉」として売られていますが、遺伝形質の「あけぼの斑」である「黄金葉」とは斑の性質が全く違うキメラ分離による葉緑素の欠乏なので、すぐに葉焼けして枯れてしまう事があり注意が必要です。斑入りの遺伝性は高く、青葉との交配でも遺伝することがしばしばあります。色々と一長一短のある系統ですが四季の移ろいや変化を楽しめる系統でもあります。四国徳島の風呂塔(ふろんとう)の黄刷け込み斑はとくに有名で人気が高く、その他にも北陸加賀や九州などの系統が多く見られます。

 

「紺散り斑」
紺散り斑は葉に濃緑色の縞斑や散り斑を染め流したもので、葉の全面に散ったものや流し染めたものが多く見られます。芽出しから葉が広がるまでは比較的綺麗に斑が見られるものですが、後に葉の地色が深くなるにつれて暗みが出て渋い味わいに変化します。芽出しが緑で後に地色が抜けて紺地を現わすものも見られます。比較的地味な一群ですが大胆な斑柄や繊細な斑柄のものまでヴァリエーションがあり味わい深いものです。


「砂子斑」
砂子斑は葉の全面に細かくスプレーで吹いた様な砂粒状の斑を散らしたもので、葉の先端に集中するものからスプレーで吹きかけた様なものまでいくつかのタイプが見られます。実生継続性も高く、実生でも比較的親と同様の斑芸を選別しやすいものでもあります。芽出しの頃に白く上がる系統のものもあり、どちらかというと芽出し前後は明るい環境で栽培した方が良い葉芸をするものが多く見られます。派手なものは後暗むものが多いと感じます。



「黄金葉」
芽出しから黄色一色で上がって後に萌黄や緑葉に変化する転覆芸です。芽出しの頃は一見派手に見えますが夏までには暗むものが多く目立たなくなる個体がほとんどです。良く黄刷毛込み斑の黄斑になったものを黄金葉として扱われていますが、それらは暗まずに葉焼けしやすくやがて枯れますので、入試の際は見極めと注意が必要です。

 

「三光斑」
葉の一部や葉脈の部分の表層や第2層に剥離がおきて斑を現したもので、剥離の状況により葉の各部が紺地や萌黄、黄色や白の斑に変化し、時には銀のりを絡めて艶やかな美しさを醸し出します。とても美しい芸で人気も高いものですがその種類は少なく、また、作り込んでいるうちに剥離の部分が修正されて普通の葉に戻ってしまうこともしばしばです。剥離により葉緑素が少ないので根の伸びも悪く長も遅々としているので余り一般的ではないかもしれません。リスクを背負った葉芸ですので栽培にはそれなりの覚悟が必要です。とはいえ、輪郭に覆輪状の剥離を見せた三光覆輪などはとても美しく、つい引き込まれてしまうのも仕方ないかもしれません。ここに紹介の品種たちもいつまでその葉芸を保ってくれるのか、ハラハラドキドキの葉芸でもあるのです。

 

「三光散り斑」
主なものは葉脈に沿って剥離が起きるもので、散り斑状の斑の輪郭や斑の一部に剥離を絡むもので、それにより葉の引きつりもしぼしぼ見られるものです。銀のりを絡めた萌黄系のものが多く見られますが、一部には黄色や白の散り斑に剥離を絡めるものもあります。また、三光斑の部分には紅を指すものも多くあります。育てて株にすると芽変わりで三光覆輪斑を生むものもあり、また、実生継続が可能なものも多く、実生によりさらなる三光散り斑を生み、一部は三光覆輪に変化するものも見られます。タネ親としてはとても面白いもので、三光覆輪を生む唯一の葉芸とも言えます。

 

「銀のり三光斑」
本来の斑入りではなく剥離による銀のりが斑の様に見える、ある意味ヤマシャクヤク独特の葉芸です。主なものは葉脈に沿った剥離ですが、中には中央脈に沿ったものや葉の前半部に集中したものなども見られます。品種によっては暗みやすい銀のりもありますが、何となく味わいのある芸でもあるのです。

 

「その他」
主だったものは本来の斑入りとは異なります。遺伝的なものや劣性ウイルスによると言われるもの、レトロトランスポゾンによると思われるものなど、本来の斑入りとはチョット異なった様々な葉芸たちです。