「福寿草を交配してみよう」
フクジュソウは交配により新しい自分だけの花を作ることが可能です。まずは交配するにあたり花の構造を見てみましょう。「花の構造と交配の仕方」 フクジュソウはキンポウゲ科のそう果型の果実を作る多年草で花はいたってシンプルな構造です。花全体は外側を包むガク片と花を形成する複数の花弁によって構成されています。中心にある緑色の小さな塊がメシベでそれぞれ1つずつが受粉能力を持ち種子になります。その周辺を取り巻く細い花糸の先端にあるものがオシベで両脇に白い粉を吹いていれば受粉可能です。単純にその花でセルフしたいときはメシベに花粉の吹いているオシベを交配します。他花交配を試みる場合はメスに使う親は予め花粉が吹く前にオシベを取っておいてからほかのオス花の花粉を付けてあげると確実な交配が出来ます。
「遺伝の形質を知ろう」
フクジュソウを交配して新しい花を作るには様々な遺伝の形質を理解することが重要です。これまでの当園の経験から、フクジュソウの形質や色の遺伝には1回の交配で形質が遺伝する「半優性」と2回以上の交配で形質が遺伝する「劣勢ホモ」が見られます。まずはそれぞれを分けてみましょう。
・1回の交配で形質が遺伝するもの(F1で遺伝する形質→半優性)
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八重咲きへテロ
フクジュソウに多く見られる八重ヘテロは力加減によって八重化する形質で、交配F1によっても発現する半優性の性質を持ちます。したがって八重化したものは 遺伝しますが、一重のものは八重の血の存在は不明です。
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撫子弁
撫子弁も交配によりF1で発現が見られますので半優勢と考えてよいと思います。♂でも♀でも発現する個体は見られます。
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爪折花
爪折笠を主体とした爪折芸もF1での発現が見られますので半優勢と考えます。様々な形質の花との交配からF1で爪折芸が発現しています。
半優性の場合、F1で芸を発現しているものは遺伝子があると考えますが、芸の出ていないものは遺伝子が残っているかどうか疑問です。考え方としては芸の発現しているものは100、発現していないものは0として考えた方が次の交配は楽かもしれません。
・2回以降の交配で形質が遺伝するもの(F2以降で遺伝する形質→劣勢ホモ)
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紅花
紅花を作る場合紅花同士では紅花の発現が見られますが、黄花や白花との交配ではF1では紅花は見られません。F1のセルフにより分離で紅花が発現しますので劣性ホモと考えます。ただし、その場合でも通常の分離比よりも紅花系は発現しにくいと思うので、懲りずに繰り返し紅花を重ねていくことが重要です。
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白花
白花も白花同士の交配ではF1で白花が発現しますが、それ以外の交配ではF1では白花が出ずにF2の分離で発現します。これも劣勢ホモ形質と思われますが、白花の場合F1でも花色に少し変化が見えるので交配親の選別は容易かもしれません。
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千重咲き・フルダブル
完全なシベの弁化はすべて劣性ホモと考えるのでF1からの分離により作出するしかありません。ただし、今のところフルダブルはミチノク系しか見られず、しかもミチノク系にはヘテロ形質が少ないのでF1を作ること自体が容易ではありません。今後、良いフルダブルの親が見つかることを願います。
劣性ホモの場合F1ではすべて標準花になりますので、多く実生した場合はどの個体が遺伝子を受け継いでいるのか見分けることが困難です。基本はどの個体も遺伝子はあると思われますが、含まれている遺伝子の量は個体により異なると考えますので、親の特徴をよく知ることが交配作出への近道です。
「2倍体と4倍体、そして3倍体」
フクジュソウの仲間は国内では染色体が4倍体のフクジュソウと、2倍体のミチノクフクジュソウ、シコクフクジュソウ、キタミフクジュソウの4種類が見られます。継続して交配をするには2倍体は2倍体どうし、4倍体のフクジュソウはそれのみでの交配をお勧めします。2倍体と4倍体で交配すると異数体となり主だったものは3倍体化してF1作出は可能ですがその後は種子が出来なくなります。また、福寿草の園芸銘花の中には福寿海や撫子、紅撫子、紫雲などの様に3倍体のものも多く見られます。交配する際にはあらかじめ倍数体を調べたうえで行うと良いでしょう。
「交配してみよう」
それでは、実際に交配したときの結果を図説してみましょう。
F1で形質を現す交配(半優性)
F2分離で形質を現す交配(劣性ホモ)
半優性と劣性ホモの両方の特性を生かした交配
八重咲きヘテロと紅花との交配F1では標準花と黄色の八重咲きヘテロの2形態が出現します。このF1で八重咲きヘテロを選別してそれをセルフもしくはもう一度紅花に交配すると、標準花、紅花、黄花八重咲きヘテロ、紅花八重咲きヘテロの4形態に分離します。ただし、紅花八重咲きヘテロの出現率はメンデル通りでも16分の1の確立です。しかし、実際は更に低い確率になるのでとにかくタネの数を沢山蒔くという事が大切かもしれません。また、戻し交配で紅花八重咲きヘテロが出来ない場合は、この中から黄花八重咲きヘテロを選別して、さらに何度も根気よく紅花交配を重ねて行きます。
このように交配を繰り返すことによって理想の花に近づくことができます。
単純に花型は半優性なのでF1で出る、花色は劣勢ホモなのでF2以降でなければ出ないと考えれば、おのずと交配の順番は決まってきます。この交配参考例も、それぞれのタイプの花たちを当てはめれば一目で交配の法則が見えてくるはずです。
今回ご紹介する当園作出のフクジュソウの交配苗たちは、このプロセスを踏まえた形でわかりやすく交配された花たちばかりです。この中で次にはどの花とどの花を当てはめれば理想の花に近づけるか等、色々と試行錯誤して考えてみるのも面白いものです。是非、ご自身の手で理想のフクジュソウ作りを楽しんでみてはいかがでしょうか。
「彩の華・オリジナル交配」
当園作出による「彩の華」オリジナル交配の花たちです。
上の交配例と「フクジュソウの名花たち」を参考にご覧ください
まずは作り方の参考例です。
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無名・素心花
(佐渡素心×七変化)×姫川素心からの選別です。明るいレモンイエローの完全素心花です。
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無名
(佐渡素心×変化)×(佐渡素心×七変化)からの選別です。素心系交配ですがF2で素心が出ない場合、素心の血はほとんど期待できません。ヘテロ形質は継続します。
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無名・素心系八重ヘテロ
(佐渡素心×四方田家緑花)×セルフ分離から生まれた素心系の八重ヘテロ花です。半優勢(八重ヘテロ)と劣性ホモ(素心)の遺伝子がうまく分離した例です。
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無名・紅花八重ヘテロ
(四方田家緑花×秩父真紅)×秩父真紅実生から選別の紅八重ヘテロ花です。♀親は八重ヘテロの黄花ですが紅花戻しで分離しています。
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無名
(四方田家緑花×七変化)からの選別です。俗に「よんなな」と呼ばれる交配で、弁化能力の高い花同士の交配からは良い八重ヘテロを多く生みます。
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無名
(七変化×佐渡素心)×(佐渡素心場っ四方田家緑花)からの選別です。二段咲きの様な面白い味の八重ヘテロです。
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無名
(七変化×七変化)×柏尾紅からの選別です。八重ヘテロの血の濃い紅花F1です。もう一度紅花との交配で分離に期待したいです。
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無名・白花ヘテロ
(車屋白×変化)×車屋白へテロの交配からの選別です。白花径八重咲きを狙った交配で、更に白花の戻し交配が面白いでしょう。
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無名・白花ヘテロ
(車屋白×変化)の兄弟交配からの選別です。イイ感じの分離なので、更に白花への戻し交配で白さを強めたいものです。
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無名・赤花へテロ
(秩父紅×変化)×秩父真紅からの選別です。紅花戻しによりヘテロの血が生きて紅花に分離しています。紅花八重系のセオリー通りの作り方です。
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無名紅花へテロ
(秩父真紅×七変化)×秩父真紅交配からの選別です。これも戻し交配による紅花へテロの分離です。秩父真紅を使ったので色上がりしています。
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無名・紅爪折花
(爪折笠×秩父真紅)×秩父真紅交配からの選別です。これも半優性で爪折×紅花のF1を作り、紅花戻しで劣性ホモ遺伝の紅花を分離させたものです。
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無名・紅花
(日の出×大和)×日の出からのミチノク交配の選別です。大輪の紅花は分離しましたが半優性の撫子弁は殆ど無くなりました。
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無名・撫子弁
これも(日の出×大和)×日の出の交配です。こちらは半優性の撫子弁は綺麗に出ましたが、劣性ホモの紅花は分離しませんでした。
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無名
(緋の海×変化)の兄弟交配からの選別です。黄花八重ヘテロと紅花交配F1の分離です。半優性の八重ヘテロは出ましたが、紅花は分離しませんでした。
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無名・紅花八重ヘテロ
秩父紅×(緋の海×変化)との交配からの選別です。これも♀標準花に♂親に八重ヘテロの花粉を利用した花ですが、紅花の形質とヘテロの形質がうまく融合しています。
ここからは完成品としての「彩の華」の名花たちです。
増殖の待たれる逸品たちです。
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菊牡丹
八重ヘテロ系の多元交配からの選別です。大輪で安定した円弁花の八重咲きで、花弁重ねの美しい花です。
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玉環
隙間の無いほど詰まった花弁は円を構成してとても美しい花姿を見せます。安定した花芸の見飽きぬ名花です。
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錦毛槍
爪折笠系の紅花の傑作です。黄色のシベと紅の花軸とのコントラストがまるでホンケヤリの様に美しく鮮やかです。
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金色夜叉
ボリュームのある大輪の八重ヘテロです。常に安定した花芸を見せるもので、良く出来ると千重咲きのように盛り上がります。
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御所×変化
古い交配ですが花重ねが良く、いまだに交配親として利用している花です。園で構成された花は見ていて飽きません。
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御神光
(日の出×大和)×日の出のミチノク系戻し交配からの選別で、撫子弁(半優性)と紅花(劣性ホモ)がうまく分離融合した例です。
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御来光
ミチノク系の紅花撫子弁で「御神光」とは兄弟です。多弁化した撫子弁の紅花は作り込むごとに華やかで見事です。
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紅鷺
御来光の更に紅花戻し交配からの選別で全体にバランスの取れた花です。一度紅花撫子弁ができると、あとは色を重ねるだけで紅花の撫子弁は半優性の確立により出現します。
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紅神楽
紅花へテロF1に紅花戻しの交配からの選別の傑作です。幾重にも重なった紅花の八重ヘテロは次の交配への最高の足掛かりです。
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(四方田家×四方田家)×セルフ
同じ八重ヘテロを重ねてヘテロの血を刻したもので、花芸の安定度は抜群です。交配親としても有能でヘテロを拾うには最高の大輪花です。
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四方田家緑花×七変化
八重ヘテロ同士の交配で古い選別で「よんなな」と呼ばれている交配です。何しろ弁化能力がの高い花ですが、七変化交配は花茎が伸びる特徴が出ます。小花弁のガク化も面白い持ち味です。
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四方田家緑花×秩父真紅
使い慣れた紅花ヘテロ形質のF1です。この花に紅花戻しで紅花へテロを生んでくれる貴重な親です。この花自体もボリュームがあり見事な花です。
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紫変化
七変化交配を累代した中からの選別で、咲き始めの花弁裏の紫褐色の対比が美しい安定した八重ヘテロです。
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七変化×爪折笠
古い交配ですが、八重爪折笠の交配には面白い親かもしれません。この花自体も多弁系の「爪草」のような雰囲気の可愛い花です。
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七変化×爪折笠
「日輪」のような雰囲気の花です。半優性の爪折芸は見えていますが八重ヘテロの血が見分けにくい花です。もう一度八重ヘテロを交配してみても面白いものです。
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七変化×柏尾紅
八重ヘテロと紅花との交配F1です。花型の雰囲気は柏尾紅そのままでヘテロ形質も見られます。おそらく紅花戻しでよい花が生まれそうです。
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車屋白×車屋白ヘテロ
おそらく「白牡丹」系交配に近いものです。ヘテロ形質は♂親でも具現化できる例で、白花ヘテロ交配の親としてはかなり良いものです。
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車屋白×変化
八重ヘテロと白花交配の親ですが、F1なので白花の形質(劣性ホモ)はまだ隠れています。白花戻しでヘテロの子をたくさん産んでいる親です。
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初日の出
ミチノクの紅花とフクジュソウの紅花との交配からの選別です。大輪で少しオレンジがかった紅花はとても美しく神々しいものです。
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曙
「初日の出」と同様の3倍体交配です。紅花同士の交配ですが大輪で鮮やかな紅色は迫力すら感じます。3倍体なのでタネは出来ません。
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翠宝
青軸素心の大輪八重咲きです。素心八重ヘテロF1どうしの交配からの選別ですが、全体の纏まりも良くなかなかの逸品です。
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雛菊
花弁重ねの良い綺麗な八重ヘテロです。大輪ではなくむしろかわいらしさもあり、株立ちにして楽しみたい一品です。
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千姫
八重ヘテロと紅花交配F1×紅花交配から選別した紅花八重ヘテロです。紅花八重系の安定したものは比較的弱体が多く、開花後も気を使います。
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素王
素心系交配の多元交配から選別した非常に大きな花を開く大輪素心花です。花間もあまり伸びず纏まって咲くのでとても迫力があります。
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素心へテロ花
これも2系統の素心へテロ交配に素心戻しから選別した素心八重ヘテロ花です。少し小ぶりな花ですがほんのり撫子弁の安定した多弁花です。
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素心蓮
大輪円弁の素心八重へテロです。弁化能力が非常に高く、いい意味で「姫川素心」がまとまりとバランスを作っています。素心へテロとしては完成された花です。
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大菊
爪折笠タイプの巨大輪花で、全開すると花は4㎝を上回ります。「四方田家緑花」の血もあり、四方田戻しなども面白いかもしれません。
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大日輪
「大菊」と同系統の交配ですが、こちらの方が作り込むと一回り大輪です。輪生する大きな爪折芸はあまり類例無く迫力があります。
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大和×日の出
撫子弁の大輪花で、花弁の乱れる大和を端正にまとめ上げています。ミチノク系の紅花撫子咲きの親として利用している親花です。
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秩父紅×柏尾紅
紅花の標準花同士の交配ですが、柏尾紅の交配は時々ヘテロ形質を絡めた多弁花を生みます。オレンジがかった色と花弁の型は柏尾紅の血が強いですね。
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秩父紅×柏尾紅
花弁重ねの良い橙紅花の纏まりの良い花です。両親の良いところを見事に受け継いだ花で、遠目にも明るい色合いは良く目立ちます。
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秩父白×小林八重
白花八重ヘテロの交配親としては利用価値の高い親です。安定したヘテロ形質で白花戻しで白花の多弁花を多く生んでいる花です。
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爪折白
やや大輪の爪折笠タイプの白花です。大菊系交配の血もあるので更に弁化や白い爪折笠作出に期待の持てる花です。
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日の出丸
ミチノク系交配で、花弁幅のある重ねの良い円弁の紅花です。あけぼの色のとても端正な花でこの雰囲気を生かしたい花です。
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白花大輪八重ヘテロ
「白牡丹」系交配に白花大輪へテロとの交配からの選別です。ボリュームのある円弁八重咲きで、更に白系との交配で白さを作りたいものです。
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白寿×大和
ミチノク系の白花撫子弁を作りたいと考えた交配F1です。白花は劣性ホモなので形質は隠れていますが、撫子弁としては完成された大輪花です。
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白鷺
ミチノク系の白花撫子弁交配F「白寿×大和」にミチノク白花「白虎」を戻し交配した中からの選別です。ミチノク系の白花撫子弁としては完成された素晴らしい花です。
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白陽
秩父白系の大輪白花交配の多元交配から選別した端正な白花大輪花です。この系統はクリームになりやすく、ここまで白さを出すのもなかなか大変です。
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緋の海×柏尾紅
両親共にヘテロ形質があると考えているので、子供には八重ヘテロの形質が出ています。柏尾紅の橙色は意外に紅花どうしの交配では優性なのかもしれません。
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緋王
紅花八重ヘテロ形質の多元交配からの選別です。ヘテロ形質は隠れていますが、光が当たるとピンクに見える肌紅色の花弁はとても珍しく、遠目にも一目でそれとわかる銘花です。
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墨染
大輪へテロの多元交配からの選別です。咲き始めに墨流しの様な緑褐色を絡めた弁化能力の高い八重ヘテロ花です。