ヤマシャクヤクの花は白一色と思われていますが、実際はほんのり紅を帯びるものや紅覆輪、多弁花や八重咲きなど、多彩な花が発見・増殖されています。
ここではそれらの花変わりとその特性を交えてご紹介します。
「色変わり」
標準の花色ではなく、様々な特性を持った花色変わりの花たちです。いずれの花色も劣性遺伝と考えますが、同系統同士(ホモ)の場合はF1でも花芸を引き出すことが出来るものが多く見られます。
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福元ピンク
大輪で花弁に厚みのある全体が優しいピンクの整型花です。特に咲き始めの色と雰囲気は素晴らしく、地元では大賞受賞歴のある銘花です。
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紅輪
四国産の紅覆輪花で、やや抱え咲きの花は白地に紅桃色の覆輪をくっきりと染めた銘花です。花も紅覆輪としてはしっかりとした銘花です。
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火の国
九州産の銘花で、丸みのある大輪花で紅覆輪の幅もあり美しい花です。作り込むと多弁化する傾向がありますが花は遅咲きです。
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外輪山
九州産のかなり大型になる紅覆輪花です。覆輪はあまり濃色ではないですが優しい雰囲気もある大輪花です。写真は実生選別花です。
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無名・酔白花
九州産の酔白花です。肉厚の整型花で、軸は濁りの無い青軸ですがメシベ先端部はピンク色に染まります。純白にはない味わいも良いものです。
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乙女
四国産の青軸で咲き始めかなり強く黄色味を帯びています。花全体がクリームを帯びて葯が赤いので咲き始めの色バランスが抜群に奇麗です。
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青軸白実
香川産の青軸で花は一見ではわからないほどほぼ純白ですが、花弁底部にほんのり紅をにじませます。纏まりの良い秀花です。
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青軸白実
四国産の大型の青軸です。花弁に幅があり全体に円を構成した美しい白花で、微妙に花弁底部に紅を濁らせます。スッキリとした草姿の良いものです。
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八坂錦
佐渡産の紅覆輪花として有名な「八坂の華」の実生から選別された濃赤覆輪に萌黄刷毛込み斑のある2芸品です。実生継続も可能です。
「八重咲き・半優性多弁花」
花弁の数が増えて多弁花するタイプのもので、作り込むと100枚を超える多弁になり素晴らしい花芸を見せてくれます。半面、株の栄養状態などの条件に左右されやすい芸でもあり、株に力が無い時や若い苗、実生初花などでは標準花やほんの数枚の小さな弁化が見られる程度の花になり、その見極めは容易ではありません。このタイプはどんなに弁花能力が高くても基本オシベ、メシベは残りますのでセルフ実生も可能です。したがって、自生地では坪で見つかることも多く標準花と交配してもF1で八重の形質を得ることが可能です。ただし、ヘテロ形質が強い多弁系八重咲きなのでこの系統同士のみの交配からフルダブルの花を作ることは容易ではありません。更に、あくまで半優性と思われるので実生により八重化した個体はヘテロの多弁形質は残りますが、標準花の個体にヘテロの多弁形質があるかどうかは疑問です。多弁形質は株の状態により左右されますので、せっかく咲いた交配実生の初花が標準花の場合、作り込んで多弁になるかどうかの最初の選別の見極めが難しいのもこの系統の面倒なところかもしれません。
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ピンク絞り八重
九州産の巨大な花で、花弁にほんのりピンク絞りを散らした多弁へテロです。弁化は顕著ではないですが作り込むと八重化します。
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ピンク獅子咲き
九州産の多弁へテロで、花弁先端部をほんのりピンクに染めた花で、外花弁に緑が残るので不思議な色模様を見せます。安定した渋い花です。
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鬼の形相
九州五木産の八重ヘテロで、とにかく弁化能力が素晴らしく全体に大柄で迫力があります。交配親としても力があり白八重ヘテロの最高峰です。
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白孔雀
九州五木産の八重ヘテロで、株立ちになっても弁化能力が高くメシベも分化して多数出現します。あまり大柄ではありませんが満開時は見事です。
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唐獅子
九州五木産の八重ヘテロで、唐子状に変化した花弁が幾重にも重なって複雑に変化します。メシベの弁化も見られ面白い花芸です。
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緑天
九州五木産の八重ヘテロで、花弁に緑を絡めた白と緑の対比は味わい深いものです。作り込んだ時の花芸の方が緑が強く出ます。
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無名・福良牡丹系ダブル
綺麗に平開するダブル咲きが特徴的な九州五木産の二重咲きです。とにかく大きな花で常に安定した特徴ある花芸を見せてくれます。
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福良達磨
九州五木系の八重ヘテロで盛り上がる様な弁化が素晴らしい銘花です。草丈も低く全体にずんぐりした特徴があり、どっしりとした花も良い雰囲気です。
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薄化粧
九州五木産の八重ヘテロで、小花弁に葯の痕跡が残り先端部にほんのり紅を染めます。弁化能力の高い花でさらなる作り込みに期待の花です。
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加賀桃姫
九州産同士の交配からの選別でとにかく大柄で大輪の桃色八重へテロ花は迫力があります。受咲きの外花弁に桃覆輪の小花弁との対比も抜群です。
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花咲紅
九州産の野生選別の桃色八重へテロで、全体に丸みがありほんのりピンクに染まった花は見飽きぬ美しさがあります。交配親としても力があります。
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加賀千代姫
花咲紅系の交配からの選別です。小花弁の紅色が強く外花弁の白とのコントラストが抜群の花で弁化能力も高い銘花です。
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加賀夢千代
加賀千代姫と同系統の花咲紅系交配の兄弟です。初花でまだ株に力がないですが既に小花弁の弁化兆候が見られます。将来楽しみな花です。
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黄桃姫
ピンク八重系の実生で、咲き始めは黄色味の強いクリーム色で美しい花です。花はすぐに白く変化しますが弁化能力の高い銘花です。
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花魁
九州産の有名な八重ヘテロです。白い外花弁とピンクの小花弁との対比が美しい花ですが、株の状態によりなかなか本芸が見られません。
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巨宝・実生
俗に「木村八重」と呼ばれていた四国産の多弁へテロで、大輪の八重は小花弁に葯の痕跡を残して緑や紅を絡め幻想的です。弁化能力の高い逸品です。
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紅天狗
九州産の紅覆輪八重の一つで小花弁を真紅に染めた美しい花ですが、株に力が無くまだ本芸を見せてくれません。作り込んだ迫力を見たい一品です。
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作州の華
古い品種ですが大柄な安定した弁化能力を見せる銘花です。交配親としても素晴らしく、岡山産という触書ですがおそらく九州産です。
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作州の吟
作州の華のF2から選別した葉の全面に銀のりを散らした散り斑の紅覆輪花です。まだ初花なので力がついて弁化するかどうかは不明です。
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酔桃姫
ピンク八重系交配の実生選別で、丸くたっぷりした花弁にほんのり紅を絡めた小花弁が重なります。初花ですが作り込みでかなり期待でそうです。
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青軸八重
九州産のとても珍しい青軸の八重ヘテロです。弁化能力は高くやや細い花弁を無数に重ねます。メシベもルビー色でタネも桃橙色です。
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無名多弁花・奈良
奈良県天川産の多弁花です。弁化は少ないですが標準花を咲かせることが無く弁化能力は非常に高い花です。交配親としては面白そうです。
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桃色吐息
九州産の古い八重ヘテロですが、白い花弁にほんのり桃色の小花弁はとても可愛らしい花です。小花はやがて白く変化します。
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白桃姫
ピンク八重系交配からの選別です。小花弁に紅覆輪を絡めるもので、弁化が進むと小花弁の紅はもう少しにぎやかになりそうです。
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卑弥呼
九州産の紅覆輪八重ヘテロの有名銘花です。力があるときは小花弁を濃紅色に染めてとても迫力があります。花型は乱れやすいですがそれだけ弁化は凄いです。稀代の銘花です。
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肥後の誉
卑弥呼・花魁と共に九州産の3大銘花で、白地にくっきりとした紅覆輪の八重咲きは緑を絡めた美しい花です。かなり大きな株になるので本芸を見るのは大変です。
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百万石
花咲紅系の交配からの選別です。写真はまだ初花ですが花型、色、コントラストや全体のバランスなどどれをとっても見事です。あとは花の大きさに期待したいです。
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夢牡丹
九州産の紅覆輪多弁へテロの大輪花ですが、とても弁化能力が高く殆ど標準花が咲きません。小花弁が外まで伸びる特徴があり、葉には偽爪覆輪が入ります。
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緑石
五木牡丹系の実生からの選別です。花弁は少し葉化して肉質でキャベツの様に塊り殆ど開きません。葉も肉厚で鑢地の特徴的な個体です。
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紅至宝
九州産の八重ヘテロで紅覆輪の花弁に濃紅色の小花弁との対比は抜群で花型も良い最高峰の銘花です。長い期間瀕死状態でようやく復活の逸品です。
「八重咲き・劣性ホモ多弁花」
力により多少左右されますが殆どの場合標準花は咲かずに八重化するもので、主なものはメシベは少し残りますがオシベはありません。非常に弁化能力が高いものですがシベの変化は劣性遺伝によるものが多く、交配F1ではほとんどが標準花となり変化花は咲きません。メンデルの法則による隔世遺伝の形質が強く、F1の分離や同系質との戻し交配によって八重咲きは発現します。フルダブルの作出を考えるとこの形質は外すことが出来ず、重ね続ければ必ずフルダブル作出の近道にはなると考えます。個人的には八重ヘテロと劣性ホモとの交配が最も楽しめると考えてはいますがはたして…。
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八重垣
古く北陸で発見された八重咲きで抱え咲きのボリュームのある八重咲きは素晴らしいものです。オシベはなくメシベのみで、交配F1はすべて標準花です。
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那岐の華
古い花で岡山産との触書ですが詳しいことは不明です。花弁の発達した小花弁を重ね変形したメシベのみでオシベはありません。やや弱体で花付きも悪いので現存数は減っています。
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雪花火
八重垣と斑入りからの交配F2選別で、分離により劣性ホモを引き出した八重咲きの傑作です。花も大きくボリュームもあり、次世代の親としては最有力の花です。
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花美人
雪花火の交配からのF2選別で、唐子状の小花弁は紅を残し迫力のある大輪花です。今後の交配でさらなる飛躍に期待できる次世代の銘花です。