「タネを蒔いてみよう」
採取したタネはタネの量によって蒔き床を選びます。10粒くらいなら9.0㎝ポット、30粒くらいなら10.5㎝プラ鉢などが使いやすいものです。蒔き床の培養土は植え込みに準じます。今年蒔いたタネは来年の春の発芽になりますので、発芽後の生長を促すために蒔き床の1/3くらいのところに元肥を入れておくと効果的です。培養土を入れたら密にならない様にタネを蒔いて、軽く覆土をして棚下などで春まで保護します。
採種したタネは一時ビニールなどで保管して早めに採り蒔きします。
「発芽したら」
セツブンソウの花が終わり新葉が出そろう頃からタネの発芽が始まります。タネが発芽すると1枚の楕円形の葉が次々と出揃います。双子葉のセツブンソウですが、セツブンソウの双葉は1枚なのです。発芽が始まったら日に当ててたっぷりとした双葉を作ります。葉が展開したら蒔き床に置き肥をして、葉のあるうちは2週間に1回の割合で液肥を与えるとかなり球根の生長を促します。4月頃から50%遮光程度の日陰に取り込むと葉痛みもせずに葉を長く保つことが出来ます。そして休眠前の葉の色が変化し始めた頃からいよいよ移植に入ります。
セツブンソウの1年目の発芽です。この様に双子葉植物ですが双葉は1枚です。
「実生の移植をしよう」
セツブンソウは2年目からは殆ど球根の位置が移動することなく定住しますが、発芽1年目の時だけ大きく移動して下に潜ります。良く成長すると蒔き床の一番底まで球根が潜るのでそのまま多湿や乾燥で死んでしまう球が多く見られます。色々試した結果、この1年目に移植するのが最も有効的な方法だと感じました。休眠前の変色した葉のついた状態では球根はまだ白色から黒色に変化する手前です。葉も付いていて根もあるので、球根の上下の区別も容易です。近いうちには休眠する前なので移植しても休眠後の移植とは球根の成長に何ら差はありません。移植には良い事ずくめの時期なのです。
まず葉をちぎらぬように蒔き床から球根をそっと抜きます。抜いた球根を6.0㎝から7.5㎝のポットに1球ずつ、球根がポットの中程に来るように植え込みます。この場合葉茎は外に出ても構いません。どうせすぐに休眠します。ポットは防虫網を入れてゴロを敷いてゴロの上に元肥を2粒程度入れて置くと効果的です。植え込んだら灌水して、棚下などで春まで保護します。植え込んだ球根は翌年以降は移動することもなくそのまま成長します。春になり本葉が出たら肥培すればそのままで3~4年目には開花します。
この時期に蒔き床を開けると葉はあるものの球根の出来ていない苗があります。そのようなものは植え込んでもその後発芽しませんのであきらめて排除します。
実生1年目のセツブンソウを蒔き床から抜いた状態です。このように大きなものでは1年目でマグァンブK大粒程度の大きさにまで育っています。
葉が変色し始めるこの時期に抜いてみると、球根が白から黒に変化する状態が見られます。このころが移植の適期で、球根の上下もわかりやすく安心して移植できます。
「交配してみよう」
セツブンソウの花の構造は下の写真図の通りです。基本は葯から出ている花粉を、メシベ先端の開口部に付着させれば結実します。
交配後は最低1日は凍結と花に水をかけぬよう注意してください。タネが膨らみ始めたら弾ける前に袋掛けをしてタネの飛散を防ぎます。
交配したら必ず交配ラベルを付けておきましょう。タネを採取するときの指標にもなりますし、目印にもなるので交配してすぐに花に水をかけずに済みます。
「新しい花を作ろう」
セツブンソウの交配は写真図のように簡単なものです。あとは遺伝子の探り合いで新しい花づくりに挑戦できます。近年ではこれまで珍しかったピンク花や赤花、緑花や八重咲きなども実生作出により比較的入手できるようになりました。これらの多くは山の花よりも遺伝子も確立していますし花芸の安定度もかなりのものになっています。是非いろいろと試してみてください。
セツブンソウの変異の多くは劣性ホモです。したがってメンデルの法則に基づいた発生の仕方ですので、まずF1を作って、そこからセルフ分離や劣性ホモ遺伝子への戻し交配などでの作出が主な方法です。ただ、これからはこうして作出された花たちの多元交配により、より進化した花たちが生まれてくると思われます。
交配の基本概念は「ヤマシャクヤク」や「福寿草」のページを参照してください。
実生2年目(カイワレの翌年)に初花が咲いた唐子咲きです。肥培による開花時間の短縮も夢では無いかもしれません。
「セツブンソウの名花たち」
セツブンソウは中国地方を中心に新しい花たちが続々と紹介されています。ここではその一例をご紹介します。これらの花たちは当然ですが、当初の野生選別から交配育種されてより芸が確立された花たちなのです。
「素心系」
濁りの無い青軸純白花たちです。数タイプ見られます。いずれも花型に特徴があり素心系の交配親としては面白い花たちです。
-
素心花
広島産の素心花で、素心としては纏まりがあり全体に丸みがありとても整った花型を見せます。丈夫で交配親としても貴重な逸品です。
-
素心花
兵庫県産の素心で、花弁はオーバーラップするほどゆったりとしたふくよかな花です。
-
素心花
俗にシナノセツブンソウとも呼ばれる長野産の多弁のセツブンソウの素心花です。やや小輪ですがとてもかわいい花です。
「赤桃花」
俗に紅花・赤花などと呼ばれる系統ですが、実際は少し紫を含んだ赤桃花と言ったところです。以外に赤桃覆輪系の花が多く花弁全体に色ののった個体はあまり多くありません。また、覆輪幅が大きな花ほど花弁に丸みが出て硬くなり花弁周縁部が開きにくい個体も見られます。丸弁できれいな個体が次々と生まれ、実生固定率もどんどん上がっているのでこれからが楽しみな花たちです。
-
赤桃花
覆輪幅のある濃赤桃色の個体です。セツブンソウの赤桃花は葉も紫味を帯びた灰青色で色素の異常が感じられるものが多く見られます。
-
桃覆輪花
ふっくらとした円弁の桃覆輪花です。花弁の開きも良く型崩れしない素直な雰囲気が見事です。
-
紅衣
ほかの赤桃花とは系統が異なり、花弁全体がピンク色に染まる珍しい花です。大輪で開きも良く花弁のフリルも特徴的です。
-
爪紅覆輪花
花弁先端部に爪紅状のブロッチの入る整型花です。花弁の重ねも良く、力がつくと多弁花へと移行していきます。
-
赤桃覆輪花
濃い赤桃色の覆輪花です。花弁に丸みがあるのですが、このタイプは咲き始めの花弁は短く、時間をかけてゆっくりと開きます。
-
赤桃覆輪花
爪紅状の赤桃覆輪がおしゃれな円弁花です。これだけ丸みのある花型はあまり多くなく、大輪で開きも良い逸品です。
-
赤桃花
初期交配の赤桃花ですが、色も花型も特に欠点はなく、開きも良い銘花です。赤桃花系の実生には欠かせない親の一つです。
-
ピンク花
花弁全体が淡いピンク色に染まった花です。エイザンスミレのような色合いはとても優しく良い雰囲気です。
「緑花系」
セツブンソウの花弁はガクの変形なので葉緑素が絡んで緑花になることがあります。花全体が緑色に見える花ですが、個体によっては開花後に白く退色するものや、より濃色で深い緑色になるものもあります。最近では素心花との交配分離によって青軸素心の緑花まで見られ変化に加速をつけています。
-
緑花
やや細弁ですが緑の質は良く澄んだ美しい色彩です。蜜弁の紫色がとても目立つ花で彩り豊かな緑花はとても珍しい花です。
-
深緑花
緑花の中でもあまり退色しないタイプで花弁の幅もありどっしりとした雰囲気を持っています。
-
緑花
明るい緑花ですが花弁脈の緑が濃いのであまり退色しません。咲き始めの裂花する前の葯のブルーとの対比が美しい個体です。
-
深緑花
赤桃花との交配分離から選別した深い緑色の多弁花です。咲き始めに褐色を絡めた吟味ある大輪花です。
-
素心淡緑花
咲き始めに淡い緑を絡めた素心交配分離から選別の淡緑花です。葯も白く完全に素心ですが、素心交配の咲き始めの緑がこのくらいでは後に白く退色します。
-
素心緑花
素心交配から選別の葯の白い完全素心の緑花です。咲き始めこのくらいならしばらくは緑を保ち美しいです。初花なので花型作りはもう少しです。
-
素心緑花
円弁の素心花との交配からの選別なので花型も良く、緑の色も抜群です。葯も白く、完全素心でここまでの緑花はまだ殆ど数がありません。
「緑細多弁花」
細い花弁の多弁系変化花で多いものでは花弁20枚に及びます。蜜弁もヘラ状に変化して日輪咲きの様な不思議な姿を見せます。とても珍しい花芸で良く出来たときの迫力はなかなかのものです。
-
緑細多弁花
花弁の細い深い緑色の多弁花で、蜜弁もへら状に変化して日輪咲きのようにも見えます。大輪で大きく開く緑花はセツブンソウには見えない珍奇なものです。
-
緑細多弁花
実生個体の中には咲き始め緑ですぐに退色して白く変化するものもあります。この花も多弁化したらなかなかのコントラストを見せると考えます。
-
緑細多弁花
最近の交配ではこの系統もかなり花弁数が増えてきました。この花は初花で20枚以上あります。花の大きさも目ざましく大きくなってかなり迫力のある花に変化しています。
-
素心緑細多弁花
緑細多弁花と素心花との交配分離からの選別です。まだ初花ですが、葯の白い青軸素心で細い緑の多弁花に変化しています。作り込みが楽しみな逸品です。
-
緑細多弁花F1
緑細多弁花の交配F1です。このように緑細多弁花はF1でも親の雰囲気の見える個体が咲きます。しかも特大輪です。今後のセツブンソウを担う一つのタイプとして貴重なF1です。
「ナデシコ弁花」
花弁先端に切れ込みの見られるフギレ撫子弁のセツブンソウです。少し咲き始めに桃色を帯びた個体も多く、赤桃花の様に葉も紫味を帯びているのが特徴です。実生継代もできるので、今後は色々なタイプの出現があると思われます。
-
撫子弁花
花弁周縁にギザギザしたフギレの入る様が撫子の様に見えるので撫子弁と呼ばれます。実生初花でも継続性が高くこのような芸が見られます。
-
撫子弁花
実生初花ですがこのようにかなり深く切れ込むタイプのものも見られます。この系統をどのようにほかの花に引き継いでいくかは今後の課題です。
-
撫子弁花
花弁に幅のある撫子弁の花です。花弁に幅のある分だけ切れ込みは浅いですが、これもまた観賞的には面白い雰囲気です。
-
撫子弁花
初期の撫子弁ですが草姿や葉の雰囲気は赤桃花との関連を感じます。この系統は株立ちになると草姿も良く、とても山野草的な雰囲気を持っています。
-
撫子弁花
大輪で迫力のあるフギレ花です。撫子弁も実生によっていくつかのタイプが出てきました。今後はセツブンソウの一分野として発展する可能性を秘めています。
-
撫子弁花
花弁の縁にギザギザとしたフギレの入る撫子弁花です。この個体は花弁の数も多弁化してなかなか迫力のある花に変化しています。
「二段咲き」
オシベの部分や蜜弁が花弁化した花でメシベは生きています。弁化の初期状態ですが♀親としての利用はメシベの変化した唐子咲き♂親との相性は良く、一重との交配よりも二段咲き♀親の方がF1分離によりボリュームのある唐子咲きなども多く生まれています。二段咲きの多くは弁化能力の高い♀親として考えるとオシベが無いので徐雄の必要もなく使いやすい花でもあります。ただし、個体数は極めて少なく、唐子咲きとの交配分離で稀に生まれるので必ず♀親として選別したい花でもあります。
-
二段咲き
二段咲きと素心から選別の貴重な二段咲きです。この花のおかげで唐子交配により次の二段咲きの選別が可能になりました。弁化能力の高い銘花です。
-
二段咲き
オシベの痕跡を残した円弁の二段咲きです。オシベはありますが花粉を吹く能力はありません。このような花は徐雄いらずなので八重交配の♀親として重宝です。
-
二段咲き
蜜弁の弁化が安定してメシベの数も多くなっています。すでに変化咲きとの交配により八重化する顔が出ています。
-
二段咲き
唐子咲きとの交配分離からの選別です。すでにメシベ部分も弁化の兆候が見られ正常なメシベと混同しています。
-
二段咲き
星型のフギレ弁の花が特徴的です。この花もメシベ部分に弁化兆候が混ざり作り込んだ時の変化が楽しみな花です。
-
二段咲き
蜜弁が完全に花弁化して大きく広がっています。メシベは正常なので交配親としての力は抜群だと考えます。
-
二段咲き
中心に纏まった弁化した蜜弁が幾重にも重なり見事な花です。やはり二段系と素心との交配からの選別で、ボリュームのある素心八重咲きの親として利用しています。
-
二段咲き
唐子咲き交配からのセルフ分離からの選別で、たっぷりとした花弁と弁化した蜜弁は初花ながら親としては大器の予感を感じさせる花です。
-
二段咲き
蜜弁もオシベも弁化したセミダブルですがメシベは通常です。こんな花が最高の親になるのですが、残念ですがこんな花はほとんど見られません。
「八重・唐子咲き咲き」
セツブンソウの変化花の最高峰です。セツブンソウの八重咲きや唐子咲きは意外にもオシベの生きている個体が多く、次の変化花作出に一役買っています。ここまで唐子咲きが普及した理由は、この唐子咲きのオシベを利用したF1分離からの唐子咲き作出が可能だったからです。もし、これが無ければセツブンソウはここまで変化の見られる花ではなかったかもしれません。最近ではこの唐子咲きや八重咲きに色を付けるべく赤桃花や緑花、素心花などとの交配も始まり、その結果も徐々にみられるようになりました。セツブンソウがどこまで進化するのか、とても楽しみな一群なのです。
-
唐子咲き
北関東産の唐子咲きからの実生選別花です。片親が標準花でのF1分離からの選別なので唐子弁の量も程よくオシベも花粉を吹きやすいので交配♂親としても重宝な品種です。
-
唐子咲き
二段咲きと唐子咲きとの交配からの選別なのでとてもボリュームのある大輪花です。この系統は弁化能力が高いのですがオシベのある個体は意外に少なく貴重な存在です。ただし、かなり早咲きの親でもあります。
-
唐子咲き
彩系の唐子咲きです。彩系は二段咲きと唐子咲きの交配からの選別なので小花弁のボリュームと迫力はかなりのものです。これでもわずかですが花粉が取れるので貴重な♂親です。
-
唐子咲き
彩系としてはすっきりとした花ですが、オシベは全くありません。初花なので作り込んだ時の迫力を見たいものです。
-
唐子咲き
彩系の特徴が良く出ている個体です。彩系は二段♀親の交配なのでオシベ部分の弁化が幅広く大きくなって三段咲きの様な開き方を見せます。よく見るとオシベも見られます。
-
唐子咲き
彩系の最高芸です。花弁も大きく花弁幅もあり、小花弁も幅があり凄いボリュームです。完成度の高い唐子咲きです。
-
唐子咲き
まだ初花ですがメシベ部分の弁化がかなり花弁に近く千重咲きに近い様相を見せています。オシベもなく大きく作り込んでみたい花です。
-
唐子咲き
千重咲きに近い弁化の様子を見せる花です。オシベはなく、切れ込んだ外弁も多弁で中心も花弁状にどんどんと開いてきます。フルダブル作出のヒントになりそうな花です。
-
素心唐子咲き
素心花と唐子咲きとの交配分離から選別の完全素心唐子咲きです。まだ初花の幼い株ですが、花弁幅もありオシベも残っているので次の交配にも楽しみな花です。
-
素心唐子咲き
初花ですが少し多弁の素心唐子咲きです。中心のボリュームも良くオシベも生きていますので、多弁系素心唐子の親として次につなげる楽しみの多い花です。
-
赤桃花唐子咲き
紫味の強い赤桃花の唐子咲きです。彩系と赤桃覆輪花との交配からの選別で、分離により狙い通りの花が咲いた例です。オシベも花粉を吹いたので次につなげる赤桃花唐子咲きが出来そうです。
-
緑花唐子咲き
彩系唐子咲きの緑花との交配からの選別です。これも狙い通りの交配で成功した例ですが、この花自体は花粉がありませんが兄弟株で親につなげられそうな個体も多く楽しみな一群です。
「斑入り葉」
斑入り葉のセツブンソウも各地で少しですが見つかっています。比較的安定性の高いものもあり、白斑のものなどは芽出しに紅を絡めてとても美しいもの等も見られ、斑によっては実生継続性の高いものもあり少しずつですが増殖も始まっています。おそらく早いところでは斑入り花色変わりや斑入り変化花などの作出も始まっていると推測しています。
-
斑入り葉
芽出しにほんのりと紅を絡めた白切れ斑の美しい個体です。花茎も透け軸上で芸の安定度も素晴らしいものです。
-
斑入り葉
芽出しの紅色が鮮やかな白斑の個体です。紅色部分はやがて乳白色の斑入りとなり落ち着きます。実生継続性の高い斑入り葉です。
-
斑入り葉
長野産の斑入り葉です。すべて実生からの作出で実生継続性の非常に高い斑入りです。白い刷毛込み斑を散らしたお洒落な斑入り葉です。
セツブンソウの進化はまだ始まったばかりです。
これからのセツブンソウはみんなで作り上げていく花です。注目してください。