福寿草

江戸時代の風流人はこのようにして福寿草を楽しんでいました。

「福寿草を栽培しよう」
福を呼ぶ縁起の良い花として古くから栽培されているフクジュソウ。山野草愛好家ならどなたでも1度は栽培経験があると思われますが、実はこの花、お正月になると園芸店などではよく見かけますが意外にもなかなかの曲者です。取り立てて夏に暑がるわけでも冬に寒がるわけでもないのですが、とにかく作り難い植物ではあります。ここでは関東地方を中心とした簡単な栽培方法を期してみたいと思います。


「入手の時期
福寿草には古くから伝わる様々な品種が見られます。
その中には入門向きなものからベテラン向きなものまであり、
最初にどれを選んでよいかわからないものも多くあります。
やはり間違いのない時期は開花期です。
お好みの花を予算枠の中で選ばれるのがベストだと思います。
ただし、開花期に入手したものはあまり動かさずに、植え替えは秋まで待ちます。
品種を限定されて入手するのでしたら秋から冬の株分け時期がベストです。
この時期でしたら芽も動いていないので、植え替え等の作業も楽なものです。

「入手方法」
一般的には「山野草専門店」の看板を出しているところで入手可能です。
前もって希望したい花を伝えておけば、手配してくれるところも少なくありません。
開花期には市場にも出回りますので、町の花屋さんやホームセンターなどでも入手は可能です。年末や年始の縁日でも福寿草が売られている事があります。また、地方によっては福寿草の会がありますのでそちらに入会してみるのも得策です。

「1年間の管理」
冬から春
開花期に入手した福寿草は茎や葉が柔らかく傷み易いものです。特に急がない場合では、無理な植え替え等せずに秋までそのまま栽培して冬芽が形成されてからきちんと植え替えてあげた方が傷みも少なく後の管理もしやすいものです。
まず…開花期に入手したら明るい陽射しで花を楽しみます。この時、夜間に凍らせないことが重要なポイントです。また、あまり暖かい場所におくのも、茎や葉が間延びして後の栽培に支障をきたす事があります。「なるべく外気温に近くて凍らない場所」で管理するのが良いでしょう。
花が終わると葉が伸び始めます。この頃にはタネがふくらみ始めますが、特にタネを蒔かない場合は花柄の部分を切除します。この場合、花茎ごとではなく花の部分のみを切除して葉は残します。葉が茂ったら柔らかい陽射しの場所に移して、この頃には茎も柔らかく風ですぐに折れやすいので、強い日光や強い風から守ります。
遮光は50%前後が好ましいでしょう。また、この時期には置き肥や液肥を与えると効果的です。置き肥は株元に2‐3粒、液肥は既定倍率で2週間に1回程度与えます。

春も終わり、夏を迎える頃には葉が枯れ始めて夏眠に入ります。葉が枯れ始めて茎が倒れたら陽のあたらない涼しい場所や棚下等の涼しい場所に移動してしっかりし夏眠させましょう。
休眠後の乾燥は大敵です。地上部が無いのでついうっかり乾かし過ぎると、良い冬芽が出来ないどころか枯れ死に至る事もあります。よく「フクジュソウは夏に乾かす」と言われますが、余り言葉だけを鵜呑みにすると大変です。休眠中でも軽く表土が湿っている程度は灌水したいものです。

秋の管理は夏と殆ど変りません。ただし…半ばを過ぎた頃から冬芽が太り始めます。秋の声を聞いてすぐに植え替えるのも良いのですが、ベテランで無いと根を乾かしてしまいます。そうなると冬芽の成長も悪くしっかりと太い芽が出来ませんので、植え替えは晩秋以降に行う方が安全です。11月頃に鉢の表土をそっとどかしてみると太くしっかりとした芽が見えれば大成功です。この時期からいよいよ、植え替えが始まります。
この時期はナメクジの食害にも注意してください。

夏はなるべく日陰の置き場で、風を通して涼しく休眠させてあげます。

「フクジュソウの植え替え」
福寿草はしっかりとした冬芽が仕上がった晩秋から初冬にかけてが理想です。ここでは、失敗の少ない植え替え方法をご紹介します。
用土を作ろう…
植え替えの前に用土を配合します。
福寿草は比較的肥えた土地で、少しなだらかな斜面に自生しています。関東でしたら赤玉土を主体に、鹿沼土と5対5か6対4程度の配合が良いでしょう。水やりが多めの人や多湿になり易い環境の場合は硬質の鹿沼土と赤玉土、それに日光砂を等分で配合して、軽石を少し混ぜると育てやすいものです。夏に熱い都会地や凍結して砂が崩れやすい寒冷地ではこちらがお勧めです。
根が多く根に用土が入り難い植物なので、あまり粗い用土では管理し難いものです。どちらの用土も小粒のものが好ましく、ただし崩れにくい硬質のものを選ぶと良いでしょう。凍結などで用土が粉になりやすい地域では小粒の軽石など崩れ難い用土を1割ほど混入します。配合した用土は微塵を抜いて軽く水をかけて用土をサラリと湿らせて置くと使いやすいものです。
・鉢を選ぼう…
植え込む鉢を選びます。
まず鉢の大きさは、根の量より1回りか2回り大きめのものが良いでしょう。
1芽で4.0号鉢から3芽で5・6号鉢が理想で、根が長く伸びるのでやや深めのものを使用します。極端に乾きやすいテラコッタや、硬焼きや磁器で出来た水はけの悪いものは控えます。駄温鉢や焼き締めの鉢等が使いやすいもので、釉薬のかかったものは多湿になり易く、素焼きのものでは乾きすぎます。その場合は用土や潅水に工夫をして栽培します。

・植え込み・植え替えをしてみよう…
まず、植え替えしたい鉢を空けてみます。しっかりした芽と茶色く長い根が沢山あれば良い苗です。
次に古い土を落とします。そのあとに軽く水洗いして、黒く傷んだ根や腐った根茎を切除しますが根の長さがまばらなものや多すぎるものは少しカットして根を揃えた方が植え込み易いものです。
次に鉢を用意して、最初に防虫網を入れてから1/4~1/5程度ゴロをいれます。ゴロの上にほんの少し培養土を山形に入れて、次に根を広げる様にして株を入れます。株の植え位置は、芽先がほんのちょっと表土から出る位の位置が良いでしょう。
次に株の半分ほどまで培用土を入れて、菜箸などで満遍なく根の間に用土をすき込みますが、ここで根の周りに元肥を数粒混ぜると効果的です。更に培用土を芽の先端がちょっとだけ見える位置まで入れたら、たっぷりと水をかけて完成です。
植え込んだ後は棚下等の涼しい場所で芽が動き出すまで管理します。また、植え替えをした株は絶対に凍らせてはいけません。先端にちょっと出した芽の部分を時々覗いて、芽が腐っていないかどうかを確認すると良いでしょう。

 

「株分けで殖やそう」
うまく栽培出来て芽数が増えたら植え替え時に株を分けて増やす事が出来ます。株を分ける場合は必ず芽の下に根茎と根が沢山付く事を確認します。芽が増えていても同じ場所から複数の芽が出たり、芽の下の根が少ないものは株分けを避けます。
根茎には節があるので、必ず節毎に芽を付けて株分けします。株を分けられる場所が見つかったら、まずその部分にハサミをあててみます。割った後の節に根茎や根が充分付く事を確認して、あてたハサミをひねる様にして節を割ります。この時、ハサミで根茎を切断するのではなく、あくまで梃子の作用でひねって節で割るように心がけます。うまく割れたら、切り口に殺菌剤等を塗って根茎の腐敗を予防します。後は植え込みに準じて鉢植えをすればよいでしょう。

水やりの仕方」
水やりは福寿草栽培の成否に大きなポイントを占めています。
まず開花期は、福寿草は花が大きく茎が柔らかいので頭からの灌水では直ぐに茎が曲がり見苦しくなります。開花期は鉢の縁からたっぷりと灌水して、花に水をかけないように心がけます。葉が伸びて茎の固まる頃には、柔らかい水やりで葉の汚れを洗い流す様に灌水してあげます。
休眠したら軽く表土が湿る程度の灌水を心掛けて、あまりからからに乾かさない様に努めます。植え替え後1週間はたっぷりと灌水しますが、凍結は避けてその後通常の灌水に戻します。

「肥料を与える」
フクジュソウは肥えた山の斜面などに多く見られるので、大きな太くしっかりした芽を作るには肥培が欠かせません。まずは植え込みの際にゴロの上と根の周りに少し緩効性の元肥を入れます。花が終わったら花元を切除しても置き肥を置きます。バイオゴールドなどを4寸鉢で3粒程度が良いでしょう。液肥も効果的です。花後から葉が枯れるまでの間2週間程度、ハイポネックスなどを規定倍率で与えます。

「病害虫」
開花期のアブラムシや冬芽のナメクジなどの食害に注意してください。葉のある時期はケムシやイモムシの食害にも注意します。開花期は低温多湿で灰色カビ病にも良く侵されます。極力、風を通して日に当ててかっしりと育てます。芽出しから黒く委縮していたらウイルスを疑います。ひどい株は消去して感染を防ぎます。

「タネを蒔いてみよう」
花後にタネが出来たら蒔いてみると苗を殖やす事も出来ます。種は触るとほぐれるので、無理に採種せずに自然落下を待ちます。時間が無い場合は、小さなビニール袋に剣山等で空気穴をあけて被せておくと採種できます。
採種したタネは培用土に蒔きます。蒔き終わったらタネの表面にタネの倍ぐらいの土を被せて(覆土)完成です。発芽までは1年かかりますので、蒔いたタネは苔などが生えぬ様に棚下で管理します。
1年後に発芽が始まったら、肥培して栄養を与えます。2年ほど蒔き床のまま管理して、秋に楊枝の先ほどの芽が出来たら最初の移植です。移植は2.5寸のポットに1芽で培用土に植え込みます。早いものでもタネ蒔きから開花までは4年かかりますので、気長に取り組んでください。

実生2年目の福寿草の苗。
このくらいの芽になったら第1回目の移植をすると開花まで植え替えは不要です。

 

「福寿草の庭植え」
福寿草は庭植えもできる植物です。
ただし…地植えにすると作り難い品種や弱い品種もありますのでご注意ください。
地上に向く品種は野生種、福寿海、七変化、撫子、紅撫子等は作りやすいものです。
まず植え込む場所ですが、理想としては落葉樹や花樹の下が良いでしょう。
梅や紅葉、ツツジの仲間等の樹林下の朝日あたりの良い木漏れ日が理想です。
植え込みたい場所を選んだら株より2回りほど大きく掘ります。
元肥を入れて株を植え込み、たっぷりと灌水して落ち葉などをかぶせれば完成です。
成長期に液肥や置き肥で肥培すると良く増えて、数年後には見事な株に仕上がります。

庭植えで雪解けとともに開花する「福寿海」。
最も丈夫で地植えに適した品種の一つです。

上の写真の植え込んで7・8年後の姿です。環境が合えばこのように増殖します。

「秩父紅」の庭植え。紅花系は管理が難しいので「紅撫子」等の丈夫な品種がお勧め。

「福寿草のこれから」
福寿草の生産者さんが減っています。これまで普通に入手できた福寿海や秩父紅、紅撫子などの生産者さんが次々と生産・栽培をやめています。これから福寿草の銘花や新花を入手する機会がとても減ってくると考えます。古い銘花達を守り、みんなでタネ蒔きましょう